鴻野:そもそも帰る場所として、決まった実家があることはどれくらい大事なんやろう。
松田:まあ分からんけどな。
子供が小学生になるまでに就職することを目標とする鴻野と、一銭も納めたことのない年金を追納することを目指す松田、2人が直前まで話していたテーマは「戸建より檜町のパークマンションの方がよくない? 」でした。ご両親は泣いています。
鴻野:逆になんで帰省せえへんの。あれなん、あんま仲良くないん?
松田:いや別にそんなことないで。
鴻野:別に会いたくはないん? でも向こうは会いたいと思ってるんちゃう?
松田:まあそらな。
鴻野:じゃあ家族やし会ってあげたほうがええんちゃう?
松田:なんやろうな…家族であることだけを理由にコミュニケーションを請求されてもそれは知らんというか。普通に家族より友達の方が大事やしな。
鴻野:でも育ててくれたやん?
松田:まあそれは世代間の義務やと思ってるからな。子どもを育てることが、子どもに対する特別なコミットメントだとは思ってへんで。
鴻野:じゃあ逆に言うと、介護せなあかんってなったらするん? 極端な話、死んだときに死体をどうするかは考えなあかんやん。
松田:死体はな、骨が残らんように最大火力で…って言ってそうしてくれるんかは知らんが、まあそうするんちゃうかな。本来これ、自分自身の遺骨の扱い方を選べるんであればそうするという話やねんけどな。
鴻野:笑 灰にするんか。でも自分のじゃないやん…そもそも親の面倒をみるっていうのはさ、世代間の義務ではないん?
松田:まあこれは非常に難しいんやけど、子どもの面倒を親がみるのは当たり前やねん。最初は何も知らんし、無力なわけやし。
鴻野:うん。
松田:ただ現役世代が老人の面倒をみるべきなのかどうかについてはな…「いや歳食うのは分かってたやろ」みたいなとこがあるというか。
鴻野:ああそうか。
松田:つまり、そこのけつは本人が拭くべきだとしてもいいんじゃないかという考え方もあって、今のところはそちらの方が感覚的に納得しやすい。ただ…
鴻野:でも自分の子供がさ…いやまあいいや。ただ?
松田:ここで分からんのが、おれはまだ老いていくことのリアリティを知らんわけ。
鴻野:それは知らんな。
松田:もしこれが50歳くらいになって身体的に老いていくことへの実感が生まれたら、また考え方は変わるかもしれん。ただ今のところはちょっと分からんな。
鴻野:あれなんかな、うちの母親が自分の両親をえらい大事にしてるから、そういうふうに思うんかな。なんかよく施設に行ってるし、果物とかを持って行ってる。なんかわりと献身的やなって感じ。
松田:まあ難しいな、おれ別に親を尊敬できるとかないしな。
鴻野:それはないよ、うちも別に尊敬してるからとかではない。
松田:でも例えばな、うちから駅までの道で、なんか立ち上がれなくなったっぽいおばあちゃんが座り込んでたときは、ちゃんと声かけたで。
鴻野:まあそれは言うな。
松田:その理由としてはさ、タイミングよくその場に居合わせたのが自分しかいないということの意味はすごく大きいというか…神様目線に立ったとき、世界におけるその課題解決はどう考えても自分にアサインされるべきやからね。
鴻野:なるほど。
松田:そう考えるとやっぱりさ、老後にかかわる諸問題って、本人の若かりし頃にアサインされるべきなように思うで。
鴻野:まあな、ええ施設入りたかったらお金貯めとけって話やな。でもさ、子供の顔を見たいとか孫の顔を見たいっていうのは、別の人ではできひんやん。
松田:それはな…おれはその要求に正当性を認めないな。近所の幼稚園の園庭でも見てろとは言わんが、自分の子供に対する妙な自己同一化があるから、そんなわけわからん考え方になるんやと思ってる。
わけわからんはわらう
鴻野:え、じゃあ彼女は交換可能なん?
松田:これも非常に難しいところなんやけど、今の文脈で言うたらおれは交換可能やと思ってるねん。自分がパートナーとして愛情をもってコミットする相手は、別に誰でもよかったと思っている。
端的には、対象の問題ではなく意志とコミットメントの問題であると表現したいところです。続きます。
鴻野:はいはい。
松田:ただ単に、今の彼女にコミットすると不可逆に決定する直前までに何かしらの経緯の問題で、相手が決まったという認識で。
鴻野:そう、そうだとして…
松田:で…ある時点においてパートナーに対して生涯を通じてコミットすると約束が成立している、明示的にであれ黙示的にであれ。その約束をお互いに信じられているという状態が非常に重要というか、そのことで期待できるようになることってあるわけやん?
鴻野:そのつもりで一緒に生活してるもんな。
松田:そうそう。一緒に生活をして、今後10年あるいは20年使い続けることになる鍋を買うという判断もできるようになるわけやん。てか最近鍋買ってんけどさ。
鴻野:どんな鍋買ったん? 自炊すんの?
松田:いや、うどんゆがくためだけに買った。
鴻野:別に電子レンジ使ったら食べられる状態になるうどんだってあるやん。
松田:生麺とか半生麺とかゆがきたいから。
鴻野:その鍋は…いい買い物なん?
松田:うん、まあそうなんじゃないかな。
鴻野:買ってからで申し訳ないねんけど、ジオプロダクトが僕のおすすめです。
松田:おお、やっぱそうやんな。この世の鍋はあれ一択やんな。
鴻野:あ、ジオプロダクト買った? それはよかった笑 両手鍋の…21cmのパスタポットか、20cmか22cmのポトフ鍋?
松田:22cmのポトフ鍋やな笑
鴻野:うちにも全く同じやつあるわ。あれ一択やで、あれ以外買う理由はない。
松田:やっぱそうやんな。ビタクラフトに騙されそうにもなったけど。
デパートで売ってる全然フェアじゃない鍋
鴻野:まあ…あれはあれでええんちゃう? 取っ手が樹脂やから長時間煮込むとかしても絶対に持てるし、それはそれで合理的な選択の一つではある。高すぎるけど。
松田:そう、それやねん。洗いにくそうなんも気すすまんしな。
鴻野:コスパも込みでジオプロダクト一択なのはそうですね。今うちにも4つあるわ。
松田:ジオプロダクトに行き着いたときは救いを感じたというか、ああいうものがあの価格で売られていること自体に、人間の誠実みたいなものを信じられるよな。
鴻野:買おうと思ったら8,000円とかで買えるんかな、あれよりいい鍋はないのにあの値段っていうのがすごい。
松田:そうそう。
鴻野:でも言ってよかった笑 別の買ってたら言わん方がいいかなとも思ったけど。それでなんやっけ…一生一緒にいる約束をしてジオプロダクトを買ったんか。
松田:笑 まあ誰でもいいとは言いつつもな、一度そうと決まったものはひっくり返したらあかんで。むしろひっくり返さんために誰でもいいと言っているみたいなところはある。
鴻野:うん…今の話やと、パートナーとの関係は最初の契約が大事みたいなニュアンスやん。
(なにそれ難しそ…)
松田:はいはい。
鴻野:最初の契約時の意思の合致みたいなのにわりと重きを置いている感じがあって…極端な話、その時点で真にパートナーシップを結ぶ意思がお互いにあれば、その後で仲が悪くなってもパートナーシップ契約の価値自体にはなんの影響もないみたいな、そういうニュアンスを感じる。
松田:うん…まあおれはそういうもんやと思っているな。
鴻野:その瞬間、ほんまにその人と一生という気持ちがあれば、その先でめちゃくちゃしてもいいってこと?
松田:いい…まあええな、ええよ。
鴻野:うん…今が何が言いたいかってさ、子どもが産まれるとき、子どもと親との間にはなんらの意思表示の合致はないわけやん。
松田:うんうん。
鴻野:まあ親が子どもの面倒をみるという意思は行為によって示されているわけやけど、でも子ども側には何もないから、子どもには責任は生じない。一方でパートナーシップは双方の合意のもとに成立するからさ…
松田:うんうん。
鴻野:つまり産んでもらったことで生じる責任はさすがにないと思うけど…じゃあ例えばパートナーが要介護になったりしたら、それは絶対に面倒をみるやん。
松田:もちろん。
鴻野:それはだから、今の話やとパートナーシップ契約が根拠やってことやんな。
松田:うん、そうなんかな。まあそうやな。
鴻野:そうなると点の意思表示が大事なん? だって変な話さ、そこから生活を送っていく全ての時点でさ、お互い各々の効用関数を最大化するために生きてるわけやん。まあ観念的にはそうやん。
松田:うん。
鴻野:そうなると点の意思表示というよりはさ…だって気は変わり得るやん。もちろんこれは気が変わることを問題としているんじゃなくてやで。
松田:言いたいことはもちろん分かるんやけどな…なんしか自分が彼女との関係において確信していることとして、自分は相手を人生の最大の目的のひとつとしてカウントしているということがまずあるねん。
鴻野:うん。
松田:で、それがなぜですかと聞かれたら、それはそう決めたからというのがもっともしっくりくる答えやねん。
鴻野:うん…うん、それはそうやな。
松田:自分は相手に全面的にコミットする、その決定に先立つ観念的な評価とか判断があるわけではない。というか、それが存在することを仮定するとそれが覆されることも仮定できて、でもだからといってコミットメントを放棄するわけにはいかないやん。
鴻野:それは例えば…奥さんが大金持ちの娘で、結婚したらその家業を継げるからみたいな理由で結婚した場合、その家業がポシャったら離婚するんですかみたいな話やんね?
本文には全く関係ありませんが、話の中で「例えば」が頻繁に出てくるように、具体例が多く出るコミュニケーションは良いコミュニケーションです。コミュニケーションの目的は紛れもなくアイデアの共有なわけですが、一般的に言って誰かが確信するアイデアが、他の誰かにそのままスムーズに受け入れられることは稀です。それは言葉によって具体的な事実から切り離されたアイデアは、一見すると高度な一般性を持っていそうでありながら、実際のところその一般性は、それが帰納された具体的な事実と対になって初めて役に立つものだからです。
まずはアイデアとそれが帰納された具体的な事実を提案することから始め、さらにそれとは別の既に共有されている具体的な事実にそのアイデアを演繹できないかを探っていく…これ茶道とかと同じなのでとりあえず言われた通りにやってください。
松田:そうそう。あるいはじゃあ、相手の感性に惹かれて一緒になったとして、病気なり事故なりでその感性を相手の中にもはや見出せなくなったとして、そのときどうするんですかって。それでもやはりコミットし続けるというのが自分の表明で、じゃあそれはなぜですかと改めて聞かれたら、やはりそう決めたからとしか言いようがない。
鴻野:ああ、なるほどな。というのはさ、そう決めるまでの過程みたいなのは大事じゃない…
松田:うん、大事じゃない。いずれにせよ決めてそれを実践することだけが重要。
鴻野:例えばさ、25歳の時点でその感性がある人と一生添い遂げようと思った場合の判断にはさ、その時点以前のことを含んでいるやん。
松田:なるほど、そうやな。
鴻野:つまり、そう決めてから今までに一緒に生活している時間…例えば今ここで植物人間になるとしてもさ、決めてから今日までの時間は、今日以降の行動の理由にはならんのか。
松田:うん、それはならんな。
鴻野:じゃあ決めた時点で、そこから先も全て決まっているん?
松田:決まっている。
鴻野:そうなんか…
松田:そういうロジックを持ち出さないと、どうしてもグリップしきれない状況は想定されてしまうからね。
鴻野:じゃあ例えばやけどさ、パートナーが不倫して離婚するみたいなパターンやと、これもある時点では真に添い遂げようと思ってたわけやけど、それ以降のどこかの時点で不倫が起こったから離婚するわけやん。
松田:うん。
鴻野:つまり真に添い遂げようと思っていた時点では不倫の可能性が織り込めていないとするとさ、今の松田の理屈やと、パートナーが不倫しても添い遂げることになるやん。
松田:うん。そういう理屈やし、自分の実践することとしても特に違和感はないな。
鴻野:おお…まあそういうことか、でもそれって普通じゃないよなたぶん。不倫したら別れようとするやん。
松田:まあまあ。
鴻野:なんでやろうな、でも言ってることが特別おかしいと思わんのはそうやねん。確かにそうやねん。
松田:で…まあこれを言い出すとあれやねんけど、今言ったようなことを腹の底から信じて日常の些事においても実践できるかが、実際には問われている気がするのね。
鴻野:うん。
松田:で、ほんまに今言ったことを信じて実践しているのであれば、不倫みたいなことが現実的に想定できるとは思えないねんな。
鴻野:まああるいは、不倫をしても添い遂げる意思表示もある気はする。
松田:ちょっと分からんけど、なんしか不倫をしてもという仮定に、正直なところリアリティを感じられへんのよね。
鴻野:確かにないな、ない。
松田:一般的な意味での不倫はだいぶ想定しにくいし…それでも外形的にそう呼ばれることをしたんであれば、それはもういいんじゃない?
鴻野:まあ確かに、僕の妻が不倫をしたからといって彼女のことを嫌いになることはないな、うん。そういうふうに結婚を見ていたら…今の研究についてやねんけどさ、少数株主のことについてはずっと話してるやん?
松田:はいはい。
研究してるのは知ってる、中身は分からん
鴻野:出資する際にさ、その出資者同士の間ではなんらかの契約がある…会社とは契約の束であるというのが一般的に考えられていることで、この契約は完全契約なんですよ。
松田:うん、知らんけど。
鴻野:つまり当事者はまず全てのことを予見した上で、お互いにどのような義務が生じていて、どのように利益を分配するのかは、全て決まっているものとして出資していると。
松田:うんうん。
鴻野:でも実際にはそうじゃないと。だから法的、事後的に介入する余地がある…とかっていうのとは全く逆の議論ですよね。
松田:はいはい、なるほどね。
鴻野:もちろん全ての場合を予見することはできなくとも、どういう状況においてもお互いが何をしなければいけないかが一義に決まるっていうのが完全契約。
松田:うん。
鴻野:で、確かにパートナーシップ契約においても、どんな場合にもお互いの最善のために行動しなければいけないことが決まっていればそれでよくて…うん。
松田:もちろんある時点での意思表示とはいえこれも難しいところでさ、私は生涯をかけてあなたにコミットしますと表明したところで、一度きりのその表明を真に受けるやつがおったらあほやん。そんなん実効性ないやん。
鴻野:ああ、まあそらないよ。
松田:つまり十分な期待を持たせるような表明は難しい…ねんけど、自分はそれを達成できていると確信しているし、まあ鴻野もそれはそうっぽいやん。
鴻野:分からんけどな笑
松田:でもこれな、自分が周囲との間で感じるギャップのうち特に重要なものやねん。こういう実践をするとか、あるいは翻って同様の期待を他人に持つことはすごく大事なことな気がするんだけれども、実際のところ相手がパートナーであってさえ、その実践している人はまずいない。自分としてはそれはすごく嫌。
鴻野:ほう、まあ他人のパートナーシップがどうであれ、それは自分とは関係がないとも思うけどな。
松田:ああ…まあまあ。
鴻野:そこは人それぞれであって仕方がないんじゃないかとは思う。それこそ僕の両親は別居して離婚しているんで。
松田:はいはい。
鴻野:僕の父親は医師なんだけれど庶民的な医師で、母親は甲南女子を出ていてまあボンボンなんですよね。それで金銭感覚がちょっと合わなかったのかな…まあだから、自分以外の人の結婚が自分のそれと違うのは全然普通だと思うし、それはもう好きにしてくれと思うし。
松田:うんうん。
鴻野:当然あなたのより私の結婚の方が幸せだと思いますけど、あなたにはそれができなくて、それは自分は運がよかっただけだと今は思うというか…自分自身そういう努力をしてきたわけではないし、少なくとも自分のおかげではない。
松田:はいはい。
鴻野:今のようなパートナーシップを選べたのはただ運がよかった、それは仕方がない。他の人が本人のできる範囲内ですべきことをしていなくて、だからあかんとは思わないかな。運が悪いだけ…じゃない? そんなに自分でコントロールできる話なんかな。
弘中綾香のミジンコみたいなコメント、見るたびにわらってまう
と松田:おれは…自分と彼女とのパートナーシップにおいては非常な効力感を持っているし、自分はこれを正しいと信じて選んで実践して獲得したという自負がある。
鴻野:ああ…
松田:その上で例えば「自分の人生においてゴルフの技量は重要なので努力して習得しました、でもこれはみんながやるべきことかというとそうではなくて、あくまでごく個人的な選択です」みたいな話はあると思うねんけど…
鴻野:うんうん。
松田:…なんだけど、他人を信じてそれにコミットするし、その裏返しとして他人にもそれを期待するというのは、自分の趣味というよりは人類の義務、どこか道徳的なものとして捉えているねんな。だから実践の程度はともかく、それに対する意思がなさそうであるとか、それを踏みにじるような独善的な振る舞いをみると、それには憤りを感じる。
鴻野:統一教会とか、そういう人たちみたいなことを言っているようにも聞こえるな笑
松田:そう、そこは難しい笑 だから最後の最後で大事なのは、人はどうあるべきかと問われたら自分はそう答えるし、だからこそその通りの行動するんだけれど、それを他人に強制力をもって適用したいかと言われるとちょっと違う。
鴻野:でもなんでそうなるんやろう、僕はほんまに自分は運がよかっただけやと思っているし、今後もそう思い続けると思うねん。
松田:はいはい。
鴻野:そんな素質、僕にはないもん。なんでそんなことできるん?
松田:知らん笑 ただちょっと思うのは、彼女と付き合ってたこの数年間、自分の友達はみんな会社で働いていたけど自分はそうではなかったし、他に負担しなければいけないストレスとかコミュニケーションコストとかもなかったよ。
鴻野:それ僕もや。
松田:そっか…まあおれはさ、博士論文に追われたりもなかったし。
鴻野:僕もや、追われてへんからまだ書けてへんねん。
松田:そっか…うん。
人生停滞ズ💫
鴻野:先生にも言われるもん、論文書かなあかんのに他のこと考えてへんかって。まあおっしゃることは分かるねんけどな。
松田:それは最近思うで、シンプルに自分が達成しなければいけないことだけを期待される環境に身を置くのは大事よ。ほとんどの達成は、能力の問題でも勤勉さの問題でもなく環境の問題やからな。
鴻野:うちの場合は子供が小学校に入るまでには就職せなあかんなとは思うけど。
松田:家帰ったら子供おるんやろ、それで博論書くのはすごいで。
鴻野:家帰ったらじゃなくて、保育園に迎えに行かなあかんねん。
松田:笑
2024年9月30日
上野松坂屋前 バス停