松田:どこがええかちょっと迷ってさ、これがまあ難しくて。
KEN:てかこの商店街ええ感じやな、ユニバみたい。

松田:ああ…まあわりといつでもこのくらいの感じやな。土日やとみんなもっとワクワクしてるで。
KEN:そうなんや、今でも結構活気あるなと思った。確かにいい街やね。
松田:たださ、いい街にあるいいお店だとして、ピンで戦える強度があるかというとまた別の話やん。
KEN:ああ、まあそれをめがけて来るほどの何かがあるかというとね。
松田:そう。そのエクスペリエンスだけを切り出して他と比べたときに、十分に堪えるだけのものがあるかというとさ。あくまでエコシステムの中で、一つの選択肢として存在して初めて輝くみたいなのもあるしね。
KEN:まあそうか、そっかそっか。
松田:ただ今から行く豚骨ラーメンは、ラーメンが好きな人にとっても有名な店やと思う。そういう強度はある。
KEN:あれは…つけ麺なん?
松田:いや、あれはまず普通のどんぶりに麺とスープだけが入ってて、 それとセットで上にのせる野菜が別であるねん。
KEN:はいはい。別皿でくる感じか。
松田:その野菜は8種類くらいあるんかな。エスニックな感じのとか、にんにく強めのやつとか、プレーンとか。その組み合わせを選んでお楽しみくださいみたいな感じかな。
KEN:はーん。

松田:ただどのフレーバーの野菜もかなりしっかりした味やから、豚骨を第一義にいくならプレーンのがええな。自分はほぼプレーンしか選ばへん。
KEN:なるほどな。
松田:なんせ麺とスープ、これがめちゃめちゃ美味しいねん。今までに食べた豚骨をメインの素材にしているスープの中で、一番美味しいと思う。
KEN:ふーん、気になるな。
松田:魚介とかで旨みを足すことはしてなくて、スープは豚とかえしだけなんちゃうかな。豚だけでこんなにできるんやというか、素材のポテンシャルを完全に引き出してる感がある。
KEN:そのさ…おれ豚骨好きな方やねんけどさ、臭みとかはどうなん? 無いのを売りにしているのか、あるのを売りにしているのか。
松田:気にしたことはないけど…でもしぇからしかみたいな世界観と比べると臭みはゼロやで。
KEN:はいはい。

近所にあるの、暴力団事務所より嫌
松田:まあ個人的な好き嫌いはあるにしても、スープの完成度は抜群やと思う。あとたまにエクスペリメンタル枠もやってて、ほんまに豚と塩だけ、かえしさえ使わずにスープを作ってる日もあったな。
KEN:あ、そういうことね。
松田:3-4口目までは楽しめたけど…まあやっぱり味は薄いよな。
KEN:やっぱりそうなんや。
る松田:かえしのパンチは必要なんやというか…まあ食えないわけではないにしても、いつものスープの方が美味しいって口は言ってるって感じ。
観念食ってっから
KEN:はいはい。
松田:それでも十分に成立はしてたからね、すごいよね。やっぱオーナーがストイックなんやと思う、そこがまず好き。
KEN:なるほど。
松田:それに加えて…食事ってさ、一日に3食しか食べられないっていうボリュームの上限と同時に、一食で一定程度までお腹を満たさなければいけないっていう、ボリュームの下限も制限もあると思うねん。
KEN:はいはい。
松田:つまり3-4口だけ楽しんで終わることはできなくて、ワンセット食べてお腹を満たしきらないとあかんやん。
KEN:ああそうやな、確かに確かに。
松田:だからいくら完璧な美味しい豚骨スープがあったとしても、それを数百キロカロリー食べようと思ったら、後半は確実に飽きてくるのよ。
KEN:いや理解した。それがあると逆にコースの正当性が見えてくるね。
コース料理には正当性がないとかいう誤った前提
松田:そうやねん。だから麺とスープだけじゃなくて、セットの野菜を選べるようにしてバランスを取るみたいなことは大事やねん。最後まで飽きずに楽しめるし、何度来ても来るたびに美味しいっていう工夫やんね。
KEN:うんうん。
松田:これは、添加物ぶちこんで舌を喜ばせるとかとは違う、美味しいはずのものをきちんと美味しいものとして楽しんでもらうための迎合やん。これを心得ている感じ、これがプロでいいなと思うねん。
KEN:はいはい。
松田:自分が今好きだと思える飲食店ってどこもそんな感じ。それこそ浜松町の…
KEN:うどん?

松田:そうそう。それこそうどんなんて、最後の方は絶対に飽きるやん。でも浜松町のもり家では、フレッシュな薬味が一人ずつ、数種類ずつ、どれもたっぷりのボリュームで提供されるねん。
舌の育ちが悪い人には難しい話ですが、○香ってあんま美味しくないですよね。そもそもいりこに限らず旨みに舌が喜ぶなんて当たり前の話なので、うどんの美味しさはむしろ小麦のテクスチャと麺の塩み、そしてそれらとの関係性においてはじめて旨みに見出されるべきな気がします。そういう意味においては浜松町のもり家や水天宮の谷やが個人的には好き。温かい麺に出汁醤油だけで美味しい、これが本当に美味しいうどんです。
KEN:はいはい。
松田:そうしたら絶対に飽きずに最後まで食べられるやろ。あとは最近よく行く西荻窪のカレー屋さんもさ…
KEN:松田もう普通にグルメやん笑
松田:まあエンゲル係数は高いよ。
分母な
KEN:笑
松田:そのカレー屋さんはさ、志高めやからちょっと辛いねん。でも付け合わせの野菜みたいなのがわりと充実してて、それを途中で挿したら流れが変わって最後まで美味しく食べられるねんな。
KEN:なるほどな。

松田:きちんと美味しいものを作った上にそういうことができるっていうのが、今の自分の好きな飲食店の類型のひとつ。今から行くのも完全にそのタイプやね。
KEN:はあ、なるほどね。ちょっと楽しみやな。
松田:どうやった?
KEN:いや美味しかったわ。し、松田が好きなんも分かる気がする。
松田:分かるでしょ、派手じゃないけどきちんと徹底的に美味しいねん。
KEN:麺も好きやったな、なんか捻くれてないやん。
松田:うんうん。
KEN:捻くれてないけどしかるべきコシはあるし、卵の香りもするし…普通やと中華そばみたいな麺が安心するとか、逆に開化楼の極太麺が迫力があっていいとかがあるわけやけど、その良いところをうまく合わせて昇華している感じというか。
松田:そうやんね、あの麺は変な下心がなくていいよな。
KEN:それを、まずはスープだけで出すのもどこかプレシャスに感じられるしね。
松田:うんうん。
KEN:それも別にエゴとかではなくて、実際にそれくらいプレシャスだし、そういうものとして楽しめた方がいいし…いやよかったな。
松田:自分のやりたいことをやり切った上で、それを丁寧に社会にポジションしていく感じがね。おれは普通に尊敬してる。
まあほとんどの人にとって、まずは徹底的にてめえに媚びるとこからな。てめえに媚びられないやつが社会に媚びられるわけねえから。てめえに媚びることを社会に媚びることに仮託しているやつは地獄に堕ちます。
KEN:尊敬できるね。あとは但し書きじゃないけどさ、カウンターのところにあった「部位ごとに鍋を分けて調理しています」とか、その下に店主の名前を書いてるのとかさ。エゴをやり切ったあとの誠実さみたいなのは気持ちいいよね。
2025年4月10日
麺処一笑