松田:あ…Netflixの『First Love 初恋』って観た?
みなと:いや観てない、ぜひ観るわ。
松田:うんまあ難しいな。可処分時間みたいなことを考えたときに、そんな簡単に勧めていいのかという話はある。
誰しもいつかは死ぬという観点からすると、たとえ1分であってもそれは命の部分です。他人に何かを推奨するのであれば、極端な話そのために死ねと言える、それくらいの気概をもってしなければいけません。なんなら遅刻をするやつはもう人殺しと同じです。
みなと:笑 ドラマ?
松田:そうそう。
みなと:でも僕あれ、『地面師たち』は観たよ。
松田:なんや、じゃあ観ていいよ。あれよりは100倍観た方がいい。
みなと:地面師たちはね、得るものは少なかったというか「ふうん」というか。

綾野剛のかけてるこれはよかったよね、合口の立体感と緩急のついたブロウラインが絶妙です。
松田:まあ流行ったのは分かるが…おれね、やっぱああいうの嫌いやねん。ああいうコンテンツってね、世の中の仕組みのうち自分の効力感が及んでいない部分を知った気にさせてくれるだけって感じやん。
みなと:こんな闇があります…みたいな?
松田:まあそう。あるいは官僚とか政治家とか、そういうのもコンテンツとしては同じように消費される傾向があると思うねん。
田中角栄が好きって人、しんどいよな
みなと:ああ、じゃああれもそうだよね。ウォール街のやつ。
松田:『ウルフ・オブ・ウォールストリート』やね、あれもたしかに。あとは『VIVANT』もおれはちょっと気になった。
みなと:なるほどね、はいはい。たしかにそれはそうね。
松田:つまり、どういう仕組みになっているか分からなくて、でもそれに自分の人生が部分的に決定されている気もしていて、それによって惨めな気持ちになっているような、置いて行かれているような、そういう感覚に当てつけるようなコンテンツっていうのが存在すると思っていて。
典型的には映画『ワイルド・スピード』シリーズに見られるような、「FBI! ハッキング! 最新鋭!」みたいなノリで高度な専門知識をおままごと化して南西部のブルーカラーのルサンチマンを癒す、これと同じ構造がありますね。
みなと:はいはい、なるほどね。
松田:地面師たちはね、そもそもの海喜館の事件がリアルタイムで報じられていたときからそういう感じがあったもん。東洋経済オンラインの記事をしたり顔でリポストする感じというか。
みなと:で…ファーストラブ?
松田:そう。とある初恋について描く話なんだけど…たとえばね、この世界に2人目のジェフ・ベゾスって要らんやん? まあ当たり前やん、Amazonが二度発明されることに意味はないねん。
みなと:笑
松田:そういう一度しか価値のないものも、たしかに世の中にはあるねん。でも初恋はそうは言えないんよね。新しい個体が世の中に生まれるたびに必要なことやねん。
みなと:ああ、そういう意味ね。はいはい。
松田:それを否定してしまうと人生の意味も否定することになるような、人の数だけ繰り返されなければならないことってやっぱりあるのよ。先人の経験も含めて他に代わりがない、全員が自分のけつを自分で拭かなあかんような何かはあるねん。
みなと:そうしないとね、綾波レイになっちゃうよね。
ハイコンテクストでわらう、まあ実存ってことです
松田:あ、そうそう。ほんまにそう笑 そういうイベントって必ず存在していて、タイトルにある通りの初恋はもちろん、このドラマの中で大切に扱われているのってそういうものばかりな気がするねんな。
みなと:はいはい。
松田:だから言うたら普通、普通のお話やねん。派手なところもきらびやかなところもないけれど、でもこういうのを大切にしたいなって思うようなね。擁護されるべきものが擁護されていると感じられるような、そういう感じ。
みなと:うんうん。でもそれって逆説的にさ、かつて自分が経験した青春みたいなものに理想を投影するみたいな、単なる慰めでしかないようなものにもなりかねないと思うんだけど、それとは違うおもしろさがあるって感じなのかな。
松田:うん。ファーストラブが良いのはそこでね、過去をだしに現在の惨めさを慰めるようなものではない。むしろだいぶ前向きやねん。
みなと:うんうん。
松田:佐藤健が主人公として出てきて、彼は元航空自衛隊のパイロットやねん。でも夢を挫かれて、今は夜間のビル警備をしてるねんな。それって相対化してしまうと取るに足らない境遇なんだけど、それを否定するでも肯定するでもなく、ただそれを原点に据えてそこからの自己実現を考えるような、そういう感じがある。
みなと:なるほどね。
松田:あれはすごくポジティブやった、擁護されるべきものが擁護されている作品やで。人生の手触りとか本当は知っているはずの何かを、相対化によって無視するのでも、絶対化して聖域にするのでもなく…まあおれはめっちゃ好きやった。
みなと:観てみるわ。
松田:最近で言うと『トリリオンゲーム』の真逆やな。まあ池上遼一の作品は個人的には好きやねんけど、あくまで劇画の世界のものとしてであってさ。あれをテレビドラマにして電波で流すのは違うよね。
2024年11月17日
すし銚子丸 木更津店